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sangimi no yado より、近辺のイベントやお得な情報、観光スポットなどご紹介します。

写真たっぷり!プロガイドのたまごと明日香村のパワースポットを巡ってみた!【飛鳥地方おさんぽガイド】

2023.10.20

神の宿る岩、竜宮に通じる滝壺、古代の人々の信仰を感じる旅。

上記のタイトルを見て「ワクワク」とした皆様なら、歴史の深い神社仏閣や古代の遺跡などを訪れたり、古代史の浪漫に思いを馳せることも多いのではないでしょうか。
今回は、飛鳥地域の魅力を余すことなく伝えるプロガイドを目指す候補生さんの案内で、明日香村のディープなパワースポットを巡るツアーに参加しました。

モニターツアーへの参加。そのきっかけは…。

飛鳥の魅力伝道師「プロガイド」養成プロジェクト。

とっておきの飛鳥旅…いろんなツアー企画があるみたい。

ツアー参加に至るきっかけとなったのは、こちらのパンフレット。
「(飛鳥地域(日本語))プロガイドのたまご」とめぐるとっておきの飛鳥旅」。
これは、飛鳥地域の魅力を余すことなく伝える令和4年8月から研修を受けてきたプロガイド候補生が企画・案内する「モニターツアー」です。
内容を見てみると、飛鳥地方に点在する古墳を巡るツアーや寺社巡り、古代の人物や出来事にクローズアップしたものなど、明日香村を中心とした個性豊かな数々のツアーが企画されています。
その中でもひと際惹かれたものが…

これは…!

こちらの「飛鳥のパワースポットをサイクリングでめぐる」というツアー。
内容を確認すると、GoogleMapで道順が確認できない場所や、自動車を停める場所が無かったり、かかる時間に想像が付かず予定に組み込めなかったりで、行ってみたいけど訪れたことのない場所ばかり。
そんな本当に行きたかったディープな場所ばかりのツアー企画は、知り得る限り初めて見つけました。
特に最後に訪れる「女渕」は、飛鳥川源流にあたる細谷川にあり、皇極天皇の雨乞い伝説の残る滝。
ここには昨年ひとりで訪れたものの、滝まで辿り着けず引き返した場所でもあります。
そこへガイドさんの案内付きで連れて行っていただける上に、モニターツアーなのでおどろくほどの格安。
 
普段の取材は常に単独行動、奥明日香の山へ入るときはいつも獣害対策の門扉(後ほど写真が出てきます)をびくびくしながら開けていた筆者にとって、またとないチャンスです。
さっそく参加申し込みをしてみました。
 
申し込みは、明日香村でのツアーや体験イベントの予約サイト「旅する明日香ネットプラス」から行いました。
おひとり様からお申込みできるサイクリングツアーや、森林浴、クラフト体験など、明日香村ならではの様々な体験にお申込みできますよ。
明日香村観光の際には要チェック!
 
旅する明日香ネットプラス 公式WEBサイト

ツアーのお供は電動アシスト付き自転車。

  • 漕ぎ出せないような急坂でもすいすい登れるアシスト付き!
  • さて、今回のツアー申込みの決め手のとしてもう一つ、電動アシスト付き自転車を利用したサイクリングツアーというのがポイントでした。
    明日香村は中心地は盆地らしい地形ですが、今回訪れる棚田や山の中は、当然きつい坂道が続きます。
    電動アシスト付き自転車でのツアーは大変嬉しく頼もしい。
    もちろん降りて歩かなければいけない箇所も多いでしょうが、10月の爽やかに晴れた朝、明日香村の山林へサイクリングなんて、最高では?

ツアー代金の中に電動アシスト付き自転車のレンタル料金も含まれており、水分補給用の飲み物などを用意するだけで準備完了。
更に動きやすい、汚れても問題ない服と靴を用意して備えました。あとは当日を待つだけです!

さあ、飛鳥屈指のパワースポット巡りへ!

当日朝。

前夜から朝方にかけて結構な降雨があったよう…。

まさかの結構な雨。
ひとまず全身コーデを撥水素材に、唯一持っているアウトドアシューズを履いて出かけます。
筆者は大阪在住ですので、集合時間に合わせるために早朝から自家用車で明日香村へ向かったのですが…途中雨脚が強くなることも多く、最悪自転車に乗らない徒歩のツアーに切り替わるのではないかとドキドキ。
県境の峠を越え、これから向かう明日香村方面の空に分厚く伸し掛かる黒い雨雲に嫌な予感が止まらず。自転車、乗れるのだろうか?
そしてこの雨の中、私はツアーについていくことができるのだろうか?

前夜から朝方にかけて降雨があったという明日香村。到着時も普通に雨降ってました。
当日朝の実際の写真。空が暗い…。

集合時間。スタート地点は石舞台古墳エリア。

  • 2023年4月より、自転車に乗るすべての人にヘルメット着用が努力義務化されました。安心・安全にツアーを楽しむために、ヘルメット着用は強くお勧めします。
  • 直前まで降っていたものの、集合時間にはチラホラ降りになり、ツアーの説明が始まる頃には雨が上がってくれました!
    今回のツアー企画・案内を担当するプロガイド候補生は中島さん。
    また、ツアーには普段から明日香村を訪れるお客様を案内しているベテラン観光ボランティアガイド、さらに明日香村観光協会の職員さんが同行。
    参加者は男女合わせて7名なので、計10名の集団で走行することとなります。
    中島さんが自作の資料ファイルを手に、ツアー概要や電動アシストの使い方、集団走行での合図の仕方やルールなど、丁寧に説明してくださいます。

前列からの右折左折や停車指示を後列に伝える合図を確認、ヘルメットを装着し、縦列で隊列を組んでいよいよ出発です!

最初の行き先は「神の宿る石」くつな石。

  • スタート地点の石舞台古墳エリアから約1.5km。まずは自転車で、くつな石の手前まで走破します。
    今回の行程のほとんどは坂道となっていて、くつな石は棚田のある阪田地区のはずれに位置します。
    GoogleMapで事前に場所を確認してみると、くつな石までの道は登録がありません。
    現地ではくつな石へ案内する看板がたてられていますが、マップを見ただけではどこから上っていくのかわかりませんし、ストリートビューでも肝心な部分は表示されないのです。
  • 「自転車に乗るのが久しぶり」という方もいらして、しばらく坂道での漕ぎ出しに苦戦されていましたが、ガイド候補生さんがしっかりとサポートしてくださいます。
  • 道中には階段ピラミッド状の墳丘が珍しい都塚古墳や、葛神社への小道がありますが、真っすぐに目的地を目指します。
    激しい登り坂が続く道ですが、軽い力で漕ぎ出せば電動アシストがぐっと押し出してくれる感じで、すいすいと坂を上っていくことができます。
    坂を上っていくと左手には阪田の棚田が広がる美しい景色を見ることもでき、全員が無事に坂の上まで辿りつくことが出来ました。

ガイド候補生中島さんによると「最初に一番キツい坂を上ることで、この先の坂道では「最初に比べたらどうってことない」と感じて欲しかった」と。
その坂道を上りきると「長い坂道、おつかれさまでした」という労いの言葉が印象深い案内板と、獣害防止用のフェンスが現れました。
ここからは自転車を降りて、徒歩で100mほど進むこととなります。
明日香村の山々には猪や鹿が生息しており、田畑を荒らす獣害が問題になっているため、獣害防止フェンスが設けられている場所があります。
このフェンスの扉には鎖が掛けられていますが、鍵はかかっていないので、自ら鎖を解いて扉を開いていきます。
このことを知らない方は、フェンスが見えた時点で入れないと判断することもあるのでご注意ください。
扉を開けたままだと、田畑や市街地に獣が入ってしまい、被害が出る可能性があります。用事が済んだら、必ず鎖をかけて扉を施錠することを心がけましょう!
扉をくぐり小さな橋を渡ると、細い山道を登っていきますが、突然景色が変わったかのような森の中に入っていく感覚を覚えました。

  • この近くの景観の良い場所の紹介もしてくださっています。ありがたや。景観ボランティアの方々がたてた案内板。労いの言葉に癒されます。
  • 写真はすでに中島さんが開けてくださっている状態…写真、ちゃんと撮れてなくてすみません。獣が入ってこないようにするということは、この先ではいつ獣に出くわしてもおかしくない、ということ。開ける時はいつも緊張します。
  • 確かに可愛い。まるでジブリの世界のようです。進み始めてすぐ左手に見えてくる堤防。可愛い顔に見えると密か人気があるそう。

直前まで降り続いていた雨のせいで地面が荒れています。
泥濘や落ち葉や苔に足を取られて滑ることもあり、転ばないように必死でした。
一番危ないと感じたのは、大き目の枝が足を取ってくること。行先にたくさんの枝が落ちている場合は、取り除いて進むのがいいかも。
周囲に手すりのようなものはないので、十分に足元を確認し、姿勢を低くして上っていきます。
しかし、集中していると100mの荒れた山道もあっという間で…。

いつも取材写真はたくさん撮るのですが、今回は悪天候と息切れでこれしか撮っていませんでした…。
鳥居の向こうに、神秘的な巨石。これが神の宿る「くつな石」!

檜で作られた鳥居と、苔むした石灯篭に囲まれた巨石、くつな石に辿り着きました!
フェンスをくぐる手前までは棚田が広がり見晴らしのいい景色が美しかったのですが、そこからたった100m上ったくつな石の周りは鬱蒼とした木々に囲まれた空間。
上ってきた道の片側には川が流れており、たいへん静かでしっとりと神秘的な場所でありました。
 
この場所は龗(おかみ)神社跡とも呼ばれています。
この場所が神社になり、巨石が「くつな石」と呼ばれる由来となった逸話があります。

昔、この巨石に目を付けた石屋が石を切り出そうと、石鑿(のみ)で「コン!」と一打ち……。
すると石の割れ目から、赤い血が流れ出し、傷ついた蛇が顕れた。
驚いた石屋はそのまま逃げ帰ったそうな。
ところが、その夜から、ひどい熱と激しい腹痛におそわれ、とうとう亡くなってしもうた。
村人たちは、これを「祟り」と恐れ、敬い、此の石を「神の宿る石」として祀った。
それがくつな石である。

大字阪田 現地の看板より

龗(おかみ)とは水、雨雪を司る神様
山峰の雨を司どるのが高龗(たかおがみ)、谷の雨を司どるのが闇龗(くらおがみ。「くら」は「谷」という意味)であり、 古来より雨を呼ぶ、また降る雨を止めてくれる神として信仰されています。
 
そして巨石をご神体としており、「くつな石」はかつてこの場所にあった龗神社のご神体でありました。
龗神社は、現在はふもとにある「葛神社」に合祀されています。
今回のツアーでは訪れませんでしたが、くつな石を訪れる際はぜひ足を運んでみてください。
 
…しかしここで体力無しの筆者。くつな石に辿り着いた時点で既にフラフラで、くつな石から貰ったパワーは全て回復に使うしかない状況。
ようやく動けるようになった頃、次のスポットへ向かうため自転車を停めたフェンス側まで下山することになりました。
ヤバい。この先ほかの参加者さんたちのペースについて行けるのでしょうか…!?

お天気は雨が止んだりぽつぽつ降ったりを繰り返しています。晴れ間はまだまだ期待できません。
再び自転車に乗り、阪田地区の棚田を見ながら坂を下りていきます。

日本の棚田百選に選出されている稲渕棚田へ。

奥明日香と呼ばれる地域に入っていきます。その入口となるのが稲渕集落。
ここは棚田の名所であり、里山を背景に棚田が広がる美しい景観が見どころ。
毎年九月には手作りのユニークな案山子が建てられ、案山子コンテストが開催されたり、棚田まつりが催されます。
稲渕棚田を展望できる休憩所でしばしのトイレ休憩を過ごし、「男綱」の見学を終えて次の目的地へと出発します。

  • こちらで偶然出会った農家の方からツアー参加者へ赤米・黒米を含めた稲をプレゼントしていただきました!直には見えませんが、飛鳥川をはさんで手前が阪田の棚田、奥が稲渕の棚田です。
  • 米の実が未熟なので食べるのには適さないけれど、吊るしてドライフラワーにするといいですよ、と教えていただきました。いただいた稲。一見よく似ている黒米と赤米ですが、赤米はほんのりと赤い色味があります。脱穀するともっと違いがわかるのかもしれません。
  • 雨天ですが、案山子コンテストの案山子を見物する人の姿もちらほらお見受けしました。稲渕地区には奥明日香唯一の休憩所が。公衆トイレもあるので、是非利用しましょう。

奥明日香に掛けられたふたつの「勘定縄」

「勧請縄」は五穀豊穣と子孫繁栄を願い、悪疫より住民を守るものとして、村境などに呪物を付した注連縄(しめなわ)をかける習慣のこと。
明日香村では、稲渕地区と栢森地区の二か所、飛鳥川の上に掛けられており、川や道を通って悪疫が入ってこないようにする神事として今日まで続けられています。
縄の掛け替えは「網掛け神事」として、男綱は毎年成人の日に神式の儀式で、女綱は毎年1月11日に仏式の儀式で行われます。

  • この近くには飛鳥川の飛び石などもあり、見どころいっぱい!こちらが男綱(おづな)。陽物をかたどっており、飛鳥川の上に掛けられています。
  • この辺りでは、夏に川遊びの企画などが催されることも。稲渕集落と栢森集落の境目に掛けられている女綱(めづな)。男綱と対になっており、更に上流にかけられています。

日本一名前の長い神社「飛鳥川上坐宇須多岐比売命神社」へ。

稲渕集落の中を通り抜け、奈良県道15号線を走行します。自動車に注意しながらしばらく進むと、左手に長い石段が現れました。
これが「飛鳥川上坐宇須多伎比売命神社(あすかかわかみにいますうすたきひめのみことじんじゃ)」の入口。
石段の上の方は鬱蒼とした森に視界が遮られており、自動車だと駐車する場所がなく、参拝するのにどれほどの時間がかかるのか不明瞭だったため、いつも素通りしていました。今回ようやく参拝が叶います!

入口に設けられた真新しい手水舎と対照的に、苔むした灯篭や石段が神秘的です。
日本一長い名前が刻まれた社号標にご注目。

石段の段数は200弱とのこと。くつな石までの坂を踏破していたためか、ここまでの坂はさほど辛いものではなく、体力の方は問題ない…と思われたのですが、この石段、手すりが一切ありません。
ガイドの中島さんも「高所恐怖症の方は控えた方が良い」とのこと。ちょっと怖いので、足元に注意しながら石段を登ります。

古い石段。急ではないけど緩やかでもありません。
上の方がどうなっているのか、下から眺めただけではいまいちわからないですよね…。

石段を登りきると道は右に折れ曲がり、カーブを描いて…。

さらに坂と石段が現れます。ですがご安心ください。ここまで登ればあとわずか、鳥居をくぐって少しの石段を上れば境内へと到達します。

  
雨の影響で境内は霧が漂っています。
境内に到着!

「飛鳥川上坐宇須多岐比売命神社」は、大字稲渕・栢森・入谷・畑集落の氏神で、創建年は不明ですが由緒ある延喜式内社です。

延喜式(えんぎしき)は、平安時代中期に編纂された格式で、律令の施行細則をまとめた法典。
式内社とは延喜式 巻九・十 延喜式神名帳に書かれている神社のことです。
式内社は全国で2861社あり、そこに鎮座する神の数は3132座いらっしゃいます。

境内はますます苔むして神秘的な空間となっています。周辺は大きな杉の木が取り囲み、両脇に摂社がある拝殿。
本殿は存在せず、拝殿後方の南淵山をご神体とする原始神道の神社です。

  • 苔むした森の中に切り取られたような空間。明日香村を舞台とした映画のロケ地にもなっています。大変静かな境内。雨がミスト状となっている感じ。
  • 日本古来の自然崇拝、信仰が現代も続いています。拝殿後方の南淵山が、この神社のご神体です。
  • 薬にもなり、魔除けの霊力を持つ木としても伝えられ、寺院や神社に植栽されることの多いムクロジ。果肉はサポニンを含むため石鹸代わりに、固い種は数珠や羽子板の羽根に使われます。地面には無患子(ムクロジ)の実がたくさん転がっていました。

中島さんによると、宇須多岐比売は水の神であり、宗像三女神の一柱「湍津姫命(タギツヒメ)」とも言われています。
湍津姫命と姉妹の三女神は、天照大御神より「道中へ降りて、歴代の天皇を助けると共に、歴代の天皇から祀られるように」と神勅を受けました。
道中とは九州から半島、大陸へつながる海の道、現在の玄界灘と言われています。
三女神はこのことから航海安全や水難守護の神とされています。
なぜ明日香村の山の中に、このような神様が祀られているのでしょうか?

  
ハチマンダブと呼ばれているそう。
角度が悪くほぼ写っていませんが、岩盤が臼のような形に抉られてできた滝があります。

飛鳥川は古来より氾濫を繰り返しており、非常に水害が多かったのです。
この神社のすぐそばにも飛鳥川が流れており、特にこの場所は渦のような水流を生み出すため、氾濫が多かった場所だと伝えられています。
水害から守っていただくために、湍津姫命をお祀りすることとなったのでしょう。
今回のツアーで巡る場所は、全て「水」に関連するパワースポット。
この地には皇極天皇の雨乞いが行われていたという一説もあり、明治時代ごろまで雨乞いの儀式「南無手(なもで)踊り」も行われていたそう。
境内では雨天の影響だけでなく、水の気配を強く感じました。

  
境内周りの木々は植栽されたもの。自然に増えた木とは根元の形状が違うので判別できるそう。
ツアー参加者みんなで、境内周辺にそびえ立ち、真っすぐ力強く水を吸い上げる杉の木からパワーを頂戴します。

栢森集落の小さな社「加夜奈留美命神社」へ。

手すりのない階段を慎重に降り、神社を後にします。
移動を始めてすぐに、先ほどご紹介した「女綱」が現れました。「女綱」は稲渕と栢森の境目に掛けられたものですので、ここから栢森集落へと入っていきます。
ガイドの中島さんは生まれも育ちも栢森だそうで、現在もこの集落にお住まいとのこと。
2023年10月から、栢森で宿泊施設を開設されるそうで、そちらの建物も外から拝見させていただきました。大きな古民家で、グループでのお泊りやお食事の提供も予定されています。

  
お地蔵さんのよだれかけや彼岸花の赤がなんとも映えています。
女綱の側にある「福石」。網掛け神事の際には、この上に祭壇を設け、僧侶の法要の後に女綱を掛けます。

集落の中を走行し、「加夜奈留美命神社(かやなるみのみことじんじゃ)」へ。
こちらも周辺は細い路地が多く、自動車を駐車できる場所がないため、訪れたことはありません。
住民の皆様の邪魔にならないよう自転車を留め、階段を上って境内へ入っていきます。

  
境内周りの木々は植栽されたもの。自然に増えた木とは根元の形状が違うので判別できるそう。
「加夜奈留美命神社」の入口。小ぢんまりとした印象。

先ほどの神社と比べると石段はたったの15段ほど。
小さな村の神社さんといった雰囲気で、境内には古い滑り台が置いてあったりと公園の役目も担っているようです。

  • 石段を上がってすぐ左手にある手水舎。
  • 中島さんも子どもの頃、この境内で遊んでいたとのこと。長年子どもたちの遊び相手をつとめたであろう滑り台。
  • 鳥居と拝殿。

そんな加夜奈留美命神社に祀られている「加夜奈留美命」は、明日香村では女神とされている水の神様。
この神様は記紀(古事記と日本書紀との総称)のどちらにも記載はありませんが、「延喜式 巻八 祝詞」内の『出雲国造神賀詞(いずものくにのみやつこのかむよごと)』に登場します。

出雲国造神賀詞は、おそらく飛鳥時代に書かれたとされています。
以下が加夜奈留美命に関する記述です。

その時大穴持命(オオナムチ)の申し上げられますには、皇御孫命(スメミマ/天照大神の子孫である天皇のこと)のお鎮まり遊ばされますこの国は大倭国でありますと申されて、御自分の和魂(にぎみたま)を八咫鏡(やたのかがみ)に御霊代(みたましろ/神霊の代わりとしてまつるもの)とより憑かせて、倭大物主櫛厳玉命(ヤマトノオオモノヌシクシミカタマ)と御名を唱えて大御和(おおみわ)の社に鎮め坐させ、御自分の御子、阿遅須伎高孫根命(アジスキタカヒコネ)の御魂を葛木の鴨の社に鎮座せしめ、事代主命(コトシロヌシ)の御魂を宇奈提に坐させ、賀夜奈流美命(カヤナルミ)の御魂を飛鳥の社に鎮座せしめて皇御孫命の御親近の守護神と貢りおいて御自分は八百丹杵築宮(きつきのみや/出雲大社のこと)に御鎮座せられました。

出雲国造神賀詞(現代訳文)より抜粋

要約しますと、
 
大穴持命(オオナムチ)とは、因幡の白兎にも登場し、国造りの神「大国主命(オオクニヌシ)」の名でよく知られる神様。
出雲大社の主祭神であり、出雲では最も崇敬されている神です。和魂は穏やかな働きの神霊であり、荒魂と対を成すもの。
 
その大穴持命の和魂は、現在の桜井市三輪にある大神神社(三輪明神)に。
阿遅須伎高孫根命の御霊は御所市の葛木御歳神社(中鴨社)に。
事代主命の御霊は橿原市雲梯にある河俣神社に。
そして賀夜奈流美命の御霊は、明日香村の加夜奈留美命神社に。
大穴持命の和魂とその三人の子の御霊を、皇御孫命の守護神として鎮座させたのです。
 
加夜奈留美命神社はこのうちのひとつであり、四つの神社を線で結ぶと、その中に明日香村がすっぽりと入ります。
 
また、加夜奈留美命は、下界を照らす神である高照姫命(タカテルヒメ)でもあるとされ、大穴持命と湍津姫命(タギツヒメ)の娘。
つまり、先ほど訪れた飛鳥川上坐宇須多岐比売命神社の宇須多岐比売の娘が加夜奈留美命とされています。

 
この神社にお祀りされている神は、水の女神であり、大穴持命の娘であり、皇御孫の守護神の一柱であらせられる神様なのです。

  
見れば見るほど素敵。訪れた際はぜひじっくりご覧ください!
拝殿に掲げられた、自然木を利用した扁額。非常に美しい扁額です。

式内社であるはずの加夜奈留美命神社は、実はその所在地が近年まで不明となっていました。
明治初年、江戸時代には「葛神社」とされていたこの神社こそ加夜奈留美命神社であるとし、復興させたのが、文人画家であり石上神宮の宮司も務めていた富岡鉄斎でした。
現在の社殿は明治八年以降に再建されたものです。

  • 母親にしがみつく子どもの狛犬。かわいい。吽形は子取りの狛犬。子孫繁栄の象徴です。
  • 集落の方々によって絶えず手入れを施されてきたことがよくわかります。加夜奈留美命神社の本殿。
  • 対となる母子にとっての、夫であり父なのでしょう。三体は大穴持命と湍津姫命、そして加夜奈留美命をあらわしているのかも?阿形は玉取狛犬。富や財産を象徴しています。

更に調べてみると、加夜奈留美命神社の名前の由来にはもう一つありました。
栢森地区では、飛鳥川の川床が露岩になっている部分が多く、集落内のどこにいても心地よい川の瀬音が響いています。

  
集落の生活に、飛鳥川が浸透していたことがよくわかります。
栢森集落でよくみかける洗い場。加夜奈留美命神社のすぐそばにもありました。

この川の瀬音=鳴水(なるみ)を水の神とし、栢(かや)の鳴水(なるみ)で加夜奈留美となったそう。
古代から清らかな水の流れと共に歩んできた集落の人々の営みに思いを馳せる、素敵な名前です。

  
万葉歌碑の脇(写真の歌碑左側)には陰陽石もありました。
万葉歌碑と、解説の札。

五十串立(いぐしたて)神酒座奉(みわすゑまつる)神主部之(かむぬしが)
雲聚玉蔭(うずのたまかげ)見者乏文(みればともしも)

玉串を立て、お神酒(みき)の甕(かめ)を据えてお供えしている神主(かんぬし)たちの、髪飾りのひかげのかずらを見ると、まことにゆかしく思われます。

万葉集 第13巻 3229番歌/作者不詳

拝殿前にある万葉歌碑。
齋串を立てて神酒を奉る神主が神を祭るときの様子を描き、その髪飾りに心がひかれることを詠んでいる句です。
歌の中の「神酒(みわ)」は、お神酒を入れる甕のこと。加夜奈留美命は、大物主神(オオモノヌシノカミ/大国主命・大穴持命と同一神)を祖神とする三輪氏と縁ある神様。
その縁でこの歌碑がたてられているのでしょうか?いろんな想像が膨らみますね。

ツアー最後の目的地。雨乞い伝説の地「女淵」へ。

加夜奈留美命神社の参拝を終え、再び自転車の元に戻った時刻は11時35分を過ぎた頃。
このツアーの解散予定時間は12時
実はかなり押している時間帯となり、最後の目的地「女淵」へ向けて出発しました。
ほとんど上がっていた雨も再びぽつぽつと降り出す中、栢森集落からさらに上っていき、奥明日香最奥の入谷集落方面へ向かいます。
…さて、ここからスケジュール的に立ち止まる余裕がなく、道中の写真撮影ができなかったので、昨年女淵を訪れた際の写真を織り交ぜてご紹介します。

  • 女淵の場所はこちら。ですが、GoogleMapでピンを刺して経路検索すると、正しい経路が示されません。
    実際は女淵のピンが刺さっている左下のヘアピンカーブの辺りに、女淵や更にその奥にある男淵への道があります。
    この部分は少しだけ車道が広くなっており、自動車で訪れた場合には短時間なら路駐することもできそうです。
    徒歩での詳しい道のりについては、奈良県公式WEBサイトが詳細に公開していますので、是非ご参照ください。
    奈良県公式WEBサイト内-細谷川の女淵への道のりをGoogle ストリートビューで確認する

自転車に乗ったまま林道進んでいくと、左手に棚田が現れます。この辺りに、女淵への方角を指し示す目印が現れます。
ここで自転車を降りて邪魔にならないよう自転車を寄せ、折り返すように左折して急な坂を徒歩で下りて行きます。
この坂は細く急こう配なので、転ばないように注意しましょう。

  • GoogleMapのストリートビューでも入口を確認することができます。入谷集落までの車道の途中に、女淵への分岐点である林道の入口があります。
  • この辺りは、地元の方が軽トラなどで通行する場合もありますので、自転車などで訪れた際は通行の邪魔にならないよう駐輪しましょう。棚田と目印。目印の通りに折り返し左折します。
  • 明日香村の各地に記される万葉歌は、情熱的な恋の歌が多い印象です。目印には万葉歌が記されています。

高山(かくやま)ゆ 出で来る水の 岩に触れ 砕けてぞ思ふ 妹に逢はぬ夜は

貴方に逢えない夜は、天の香具山から湧き出る水が岩に触れて砕けるように、心が砕けたようだと感じられます。

万葉集 第11巻 2716番歌/作者不詳

本来はここから沢へ下る階段があり、そこから沢を上がっていくのが正規ルートなのですが…今回は別ルートが用意されていました。
ガイドの中島さんが、先ほどの棚田の側を進んで、直接女淵の側へと降りられる足場を作ってくれているというのです!
各地の情報を直接質問することが出来る他にも、地元の方しか知らない・使えないルートを使わせてもらえるのもガイドツアーの醍醐味ですね…!

 
しかしながら、昨夜からの豪雨で作った足場や道がどうなっているのかわからないし、沢も増水していて勧められないので、危険と感じたら降りることはできません、とのこと。
ま、まさか…今回も女淵には到達することができないのでしょうか…?
ツアー参加者みんなで中島さんの後に続き、田んぼのフェンスを頼りに細い道を進みます。
そしていよいよ女淵のすぐ上までやってくると、女淵と男淵についての解説板があらわれました。

  
しかし読んでいる余裕は当時はありませんでした…。
かなり傷んでいるものの、なんとか読むことができそうです。

 
中島さんが作った足場を降りながら確認してくれます。女淵のある川は「細谷川」といい、畑地区から流れてくる飛鳥川の源流域。
その沢の壁面の土を踏み固め、足場を打って道を作ってくれていたのです。
が、ここまでの雨で足場は泥と化しており、降りるとなると泥まみれになることが予想されます。
しかし、ここまで来て引き返すなんて絶対嫌だ!午後からも別の仕事があったのですが、覚悟を決めて中島さんのすぐ後をついて泥の足場を下っていきました。
立ち上がったままでは厳しく、泥の壁面に手をつき、一歩一歩滑らない様に降りていきます。中島さんが足をかけるところを教えてくれたり、手を取って導いてくれたりと厚くサポートしてくださいました。

 
そしてついに…!

  
ようやく女淵にたどり着くことができて、感無量です…!
古代から変わらぬ清い流れ「女淵」。

女淵へたどり着きました!やっと来れた~~~~!
「女淵」は、かつて皇極天皇が雨乞いの儀式を行った場所。
滝の高さは5~6m、滝つぼの深さは6mの青竹を差し込んだところ底にとどかなかったといわれています。
「女渕」から1.5kmほど上流にある「男淵」の滝つぼも深く、これらにはそれぞれ龍神が住み、竜宮に繋がっているという伝説が。
また、この地には皇極天皇が雨乞いを行った伝説も残っています。

皇極天皇は、飛鳥時代の第35代天皇であり、史上二番目の女帝にしてはじめて重祚(ちょうそ/一度その位を退いた天皇が再び、天皇の位に就くこと)した天皇でもあります。
そんな彼女の雨乞いの実績が、日本書紀に記されています。
皇極天皇元年(642年)の夏、日照りが続き、民が大切な牛馬を犠牲にして雨乞いするも降らず、蘇我氏が多くの僧を招き大雲経を読んでもほとんど降雨が得られませんでした。ところが…。

八月甲申朔。天皇幸南淵河上。跪拜四方。仰天而祈。即雷大雨。遂雨五日。溥潤天下。

八月一日、天皇が南淵の川上にお出ましになり、跪いて四方を拝み、天を仰いでお祈りになると、たちまち雷鳴がして大雨が降った。雨は五日間続いて、あまねく国土を潤した。

日本書紀

この出来事から、皇極天皇は非常に霊験あらたかな霊力を持つ巫女であったと現代まで伝えられています。
そしてこの雨乞いが行われた場所が女淵であるという説があります。
今回のパワースポット全てに通じることですが、水の音が絶えず響き、緑に包まれ簡単に人が立ち入る場所ではないからこそ、大変静かで涼やかな空気が漂っています。
古代と今が間違いなく繋がっているというか…この国の創成期にあった景色がここに残っているのだと強く感じました。
予想していたより衣服の汚れも少なく、沢の水で手を清めて、僅かな間この厳かで静謐な場所にやって来た達成感を噛みしめました。

 
雨によって足場が悪かったものの、ツアーに参加した全ての人が、無事に中島さんの作ってくれた道を利用して女淵へたどり着くことができました。
誰も怪我もなく、トラブルも無く全ての予定地を巡ることができ、私たちは再び泥の足場を上って女淵を後にしました。あとは無事に、解散場所へ戻るのみ。

解散するまでがツアーです。

こうして女淵の沢から自転車を駐輪した箇所まで戻ってきたのですが…女淵の雨乞いパワーをいかんなく発揮したかのような大雨が降っておりました。
さっきまで小雨ばかりであまり濡れなくて助かったね!と参加者さん方と喜び合っていたのに…。
持参されている方はみなさん、素早くレインコートを羽織りますが、私には撥水速乾加工の服しかありません。
仕方ない。女淵を訪れた客人を龍神様が歓迎くださったのだと思えば…足首まで付いた泥も落ちるかもしれないし。
 
中島さんによると、ここから解散場所であり出発地点でもある石舞台古墳エリアまで戻るのには、たったの15分ほどで到達するとのこと。
ここまでほぼすべてが上り坂だったので、帰りは適度にブレーキをかけながら下って行くのみなのです。もう必死になって自転車をこぐ部分もありません。
帰りは殆ど車道を走行することになるので、自動車とスピードの出すぎ、そしてスリップに気を付けて…。
これが晴れた秋の日ならどんなに気持ちよかったでしょうか。しかし実際は大雨。顔面に無数の雨が叩きつけられ、まともに目を開けられません。
ブレーキを掛けながら薄目を開けてとにかく無事に帰れるように必死。
途中、栢森から稲渕に下ってきた辺りで、雨の棚田の中から空へ飛び立つ真っ白な白鷺を見ました。
あまりの美しさに薄目で見惚れつつ、坂を下って行きました。
 
こうして全身ずぶ濡れになりながらも、全員が無事にスタート地点に到着。
石舞台古墳エリアにある産直とレストランを兼ね備えた「明日香の夢市」の前に建てられたテントの下に入って、乾いたタオルで身体を拭いてようやく落ち着きました。
雨によって体力はかなり削られたものの、ツアー内容は大満足のひとこと。
中島さんのフォローも非常に頼もしく、かつて一人ではたどり着けなかった女淵にも行くことができて、本当に良いツアーでした!
最後には今回のモニターツアーについてのアンケートに答え、ツアーの全行程が完了しました。

  
アンケート用紙も湿ってしまうほどの雨でした。
無事帰還。参加者みんなでアンケートに答えている間に、観光協会の方が頂いた古代米の稲を持ち帰れるように袋に入れてくださいました。
  • 夢市茶屋 「古代米御膳」。珍しい古代米ごはんに、しっとりとした呉豆腐に野菜中心の献立。この日のメインはジューシーな鶏の唐揚げでした。
  • この後は濡れたせいでとにかく寒くて(しかも汗だくでもある)、目の前の「明日香の夢市」に飛び込んで昼食をいただきました。
    先に入店していたツアー参加者の方々と相席させていただき、ツアーの感想などで話が盛り上がり、ツアー後も楽しい時間を過ごさせていただきました。
    お食事も、疲れた身体に染み渡る素材を活かした優しい味付けに、ボリュームもあってとても美味。
    なにより、今日のツアー中ずっと見てきた棚田で育てられた古代米ご飯を頂けたのも最高でした。
    みなさまも明日香村を訪れた際は、是非お食事を楽しんでくださいね!

アクセス情報

今回のツアー行程をマイマップで作ってみました。奥明日香観光の参考にぜひご覧ください。
体力に自信のない方でも、健脚であれば電動自転車で奥明日香や女淵まで行けちゃいますよ!

 

「飛鳥のパワースポットをサイクリングでめぐる」ツアー地図

 
モニターツアー申し込みは、明日香村でのツアーや体験イベントの予約サイト「旅する明日香ネットプラス」から行いました。
2023年12月までまだまだモニターツアーが企画されています。興味を持たれた方はぜひ、ツアーに参加してみてください!
明日香村を何度も訪れているディープな明日香村ファンの方には特にオススメです。良い旅を!
 
旅する明日香ネットプラス 公式WEBサイト

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